Photographer
Videographer
Director
見えているものの中に、
見えていないものがある。
写真と映像、そして記憶について。
高田尚紀とは何者か。
そう聞かれると、私は少し困ってしまう。
フォトグラファーです、と言えば嘘ではない。
ビデオグラファーです、と言っても間違いではない。
広告写真の現場に長くいて、人物、商品、料理、空間、会社案内、広報物、映像制作に関わり、いまはGworksとして写真と動画をつくっている。
けれど、それだけではどうも足りない気がする。
私はたぶん、何かを「撮る」人間である前に、何かを「感じ取ってしまう」人間なのだと思う。
見えているものの中に、見えていないものがある。
形の奥にある気配。
色の奥にある温度。
光の奥にある時間。
沈黙の中に残っている感情。
そこに確かにあったはずなのに、言葉にした瞬間にこぼれ落ちてしまうもの。
私は、たぶんそういうものを追いかけてきた。
人物であっても、ものでも、料理でも、空間でも、私が見ようとしてきたのは、表面の美しさだけではない。
その奥にある、触れられそうで触れられない気配だった。
写真や映像は、目に見えるものを写す。
けれど私が本当に残したかったのは、目に見えないものの方だったのかもしれない。
うまく撮れた写真というのは、ただきれいな写真ではない。
あとから見返したときに、その場の空気や、温度や、匂いのようなものまで戻ってくる。
そこにいた人の気配や、その時間の静けさまで思い出される。
私は、そういうものを写真や映像の中に閉じ込めたいと思ってきた。
それは、私自身の人生とも関係しているのかもしれない。
私の中には、いくつもの記憶が染みついている。
子どもの頃の病院の匂い。
父を失ったあとの家の空気。
写真学校で何者にもなれなかった時間。
誰かに必要とされたかった記憶。
大切な人を失った記憶。
仕事に救われた記憶。
そして、いまもなお身体の底に残っている、説明しきれない感情。
記憶というものは不思議だ。
出来事そのものよりも、匂いや光や肌に残った感触の方が、ずっと長く残ることがある。
言葉では忘れたつもりになっていても、身体のどこかが覚えている。
何十年も経ってから、ふとした瞬間にその場の空気だけが戻ってくる。
私にとって写真や映像は、そういう記憶に近いものなのだと思う。
何かを正確に説明するためだけのものではない。
目の前にあったものを、そのまま記録するためだけのものでもない。
そこにあった時間や、空気や、言葉になる前の感情を、少しでも残すためのもの。
だから私は、表面だけを整えたものにはあまり惹かれない。
きれいに見せることは大切だ。
伝わりやすくすることも大切だ。
けれど、それだけでは心に残らない。
その人、そのもの、その場所が持っている本来の気配。
そこに積み重なってきた時間。
作った人、使う人、そこに関わってきた人たちの思い。
そういうものが画面のどこかに滲んでいるとき、写真や映像はただの情報ではなくなる。
Gworksという名前の「G」は、Gravityから来ている。
引力。
人が何かに惹かれるとき、そこには目に見えない力がある。
私はその見えない力に、ずっと近づこうとしてきたのだと思う。
人にも、ものにも、料理にも、空間にも、会社にも、必ずそのものだけが持っている引力がある。
ただ、それは本人たちには見えにくい。
毎日そこにいる人ほど、自分たちの良さに気づかない。
当たり前になってしまったものの中に、実は他人の心を動かすものがある。
私の仕事は、それを見つけることなのだと思う。
撮影前に、話を聞く。
何を伝えたいのか。
どんなふうに見られたいのか。
何を大切にしてきたのか。
どこに迷い、どこに誇りを持っているのか。
その言葉になりきらない部分を拾い上げ、写真や映像の形にしていく。
それが、私の仕事のいちばん大事な部分だ。
だから私は、ただカメラを持って現場に行く人間ではない。
撮る前に考え、聞き、感じ、言葉にし、ようやくシャッターを切る。
高田尚紀とは何者か。
たぶん私は、記憶にこだわり続けてきた人間なのだと思う。
そして、その記憶を、写真や映像や文章に変えようとしている人間なのだと思う。
過去に染みついたものは、消えることはない。
けれど、それをただ抱えて生きるだけではなく、誰かに届く形に変えることはできる。
人の魅力も、ものの魅力も、場所の魅力も、会社の魅力も、同じだ。
言葉にされなかったものは、存在しなかったことになってしまうことがある。
だから私は、それをすくい上げたい。
派手ではなくてもいい。
大きな声で語られなくてもいい。
でも、確かにそこにあったもの。
誰かが積み重ねてきた時間。
誰かが何かを大切にしてきた記憶。
その場に流れていた温度。
そういうものを、きちんと残したい。
高田尚紀とは、何者か。
私はまだ、その答えを探している途中なのかもしれない。
けれど少なくとも、ひとつだけ言えることがある。
私は、見過ごされそうなものの中にある引力を、
見つけたい人間なのだ。
映像作家・写真家・Gworks主宰、光と影、時間の移ろいをテーマに、広告、ドキュメンタリー、映画、写真作品など幅広い領域で活動。企業やブランドのクリエイティブデレクションも手がける。