撮影の依頼をいただくと、まずその会社や商品のことを調べます。
どんな仕事をしているのか。
どんな商品をつくっているのか。
誰に向けて、何を伝えようとしているのか。
競合する会社は、どのような見せ方をしているのか。
撮影前にできるだけ知っておくことは、とても大切だと思っています。
けれど、調べたことで分かったつもりになってしまうと、かえって見えなくなるものがあります。
事前に考えた答えに、目の前の会社や人を当てはめてしまうからです。
撮影前に必要なのは、完成した答えではありません。
私が持っていくのは、ひとつの仮説です。
そして現場に立ったら、その仮説をいったん脇に置いて、もう一度見るようにしています。
1.撮影前に、できるだけ調べる
2.調べるほど、見えなくなることがある
3.仮説は持つ。でも、答えは持ち込まない
4.現場で、最初の考えを疑う
5.担当者と同じ側から見る
6.正解を決めないまま、最後まで見る
何も知らずに現場へ行けば、目の前にあるものをきれいに撮ることはできても、その会社にとって本当に必要なものを見落としてしまうかもしれません。
だから私は、撮る前に、できる限りその会社のことを知ろうとします。
撮影は、カメラを持って現場に入ったところから始まるわけではありません。
依頼をいただいた時点から、少しずつ始まっています。
まず、会社のWebサイトを見る。
商品やサービスについて調べる。
これまで、どのような伝え方をしてきたのかを見る。
同じ分野の会社は、何を強みとして見せているのか。
今回の写真や映像が、Webサイトで使われるのか、会社案内なのか、採用なのか、営業資料なのかによっても、見るべきものは変わります。
撮影前に調べるのは、詳しくなったつもりになるためではありません。
現場で、何を見なければならないのか。
担当者の方に、何を聞かなければならないのか。
その準備をするためです。
技術力の高い会社。
人を大切にしている会社。
長い歴史を持つ会社。
新しいことに挑戦している会社。
どれも間違いではないかもしれません。
技術力のある会社だと思えば、機械や作業する手元ばかりを見る。
温かい社風を伝えようと思えば、笑顔ばかりを求める。
力強さを表現しようとすれば、必要以上に光や構図をつくり込んでしまう。
最初に答えを決めてしまうと、現場で起きていることよりも、自分が考えた筋書きのほうを優先してしまいます。
それでは、見ているようで、実際にはあまり見ていません。
自分の考えに合うものを、確認しているだけになってしまいます。
一方で、事前に調べることには、少し怖さもあります。
情報を集めるほど、自分の中に「この会社はこういう会社だ」という像ができてくるからです。
だからといって、何も考えずに現場へ行くわけではありません。
この会社の魅力は、ここにあるのではないか。
この商品は、こう見せると伝わりやすいのではないか。
この仕事をしている人の姿に、会社らしさが表れるのではないか。
撮影前には、いくつかの仮説を立てます。
仮説があるから、現場で見るべき場所が分かります。
聞きたいことも、確かめたいことも見えてきます。
ただ、それを正解だとは思わないようにしています。
実際に現場へ行くと、事前に考えていたことと違うことがよくあります。
思っていたより静かな現場だったり、反対に、想像以上に人の声が飛び交う場所だったりする。
商品写真だけでは分からなかった大きさや重さ、質感がある。
Webサイトでは大きく紹介されていなかった仕事に、現場の人たちが強い誇りを持っていることもあります。
仮説と現場が違っていたとき、それは準備が無駄だったということではありません。
自分には見えていなかったものが、そこにあったということです。
現場に入ったら、まず歩きます。
人がどのように動いているのか。
どこに光が入り、どこに影ができるのか。
作業の中で、どの瞬間に人の表情が変わるのか。
誰と誰がよく言葉を交わしているのか。
商品の置かれ方や、道具の使われ方にも、その場所らしさが表れます。
机の上に長く使われてきた道具がある。
誰かが自然に次の人の作業を手伝っている。
機械が止まった一瞬に、短い会話が生まれる。
担当者の方にとっては、いつもの光景かもしれません。
けれど、外から来た私には、その何気ない場面が、その会社を伝える大切なものに見えることがあります。
撮影前に考えていたカットは、もちろん頭の中にあります。
必要な写真や映像を確実に押さえることも大切です。
でも、それだけに集中していると、目の前で起きた小さな変化を見逃してしまいます。
予定したものを撮りながら、予定していなかったものにも目を向ける。
そのためには、ときどき自分の最初の考えを疑う必要があります。
反対に、毎日見ているために、当たり前になって見えにくくなっているものもあります。
外から来た私だから気づけることもある。
けれど、それを一方的に「この会社の魅力はこれです」と決めるのではなく、担当者の方と一緒に確かめていきたいと思っています。
なぜ、この工程を大切にしているのか。
なぜ、この商品をつくり始めたのか。
なぜ、ここだけは変えずに続けているのか。
話を聞くうちに、最初は何気なく見えていたものの意味が変わることがあります。
反対に、会社が強みだと思っていたことより、外から見たときに伝わりやすい魅力が別のところに見つかることもあります。
どちらか一方の見方を正解にするのではなく、内側からの視点と外側からの視点を重ねていく。
撮影の間だけでも、その会社の一員になったつもりで、何を伝えるべきかを考える。
私が大切にしているのは、撮る側の答えを押しつけることではなく、担当者の方と同じ側に立って、伝わる形を探すことです。
私は、撮影する側と依頼する側を、できるだけ分けて考えたくありません。
もちろん、私はその会社のことを、そこで働く人たちほど深く知っているわけではありません。
長く働いているからこそ分かることがあります。
撮影が終わっても、「見る」ことは終わりません。
撮った写真を並べる。
映像の素材を見返す。
似たようなカットの中から、どの一枚を残すのかを考える。
撮っているときには強いと思った写真が、全体の中で見ると少し違って見えることがあります。
反対に、現場では何気なく撮った一枚に、その会社の空気がよく表れていることもあります。
明るい表情が、いつも一番いいとは限りません。
きれいに整った場面が、その会社らしさを最も伝えているとも限りません。
仕事に集中している横顔。
使い込まれた道具。
人と人の間に生まれた、ほんの短い視線。
そうしたものが、見る人の中に長く残ることがあります。
正解を決めつけないというのは、曖昧なまま撮ることではありません。
考えないことでもありません。
撮影前に考え、現場で見直し、撮影後にももう一度問い直すことです。
自分が最初につくった答えに合わせるのではなく、目の前の人や会社、商品が持っているものに、最後まで目を向ける。
見るたびに考えが変わってもいい。
むしろ、現場を見て何も変わらなかったとしたら、事前に考えたことだけを見ていたのかもしれません。
最初に考えていたものとは違う答えにたどり着くことがあります。
その違いの中に、その会社らしさが見つかることがあります。
だから私は、撮影前にできるだけ調べます。
そして現場に入ったら、調べたことだけを信じすぎないようにします。
仮説は持つ。
でも、正解は決めつけない。
それも、私が撮る前から大切にしている「見る目」のひとつです。
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